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Addicted To You
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今日の東レとの試合を。



フルセットの激闘の末、ものにしたものの。



精神的にも肉体的にも、ダメージ大。







それにしても。



いつからだろう?



こんな日は、決まって。



無性に『逢いたい』なんて、思うようになったのは ──。









遠征から帰ってすぐ、ケイタイを手にした。




「今から、迎えに行くから。」



時間的には、予定よりだいぶ早かったと思われる連絡に。



彼女は、少し驚いた空気を見せつつも、いつものように「わかった〜。」とだけ応えた。








彼女のウチまで、高速で1時間弱の道のり。



知らず知らずにアクセルを踏み込み。



赤信号に舌打ち。



そんな自分に苦笑い…だ。









「ついたぞ。」



彼女の独り暮らしのマンションの前。



「あっ、う…うん。」



予想どおりのアセった声。



チラリとカーテンにひるがえった人影に。



クスリと笑う。



さぁて、今日はどのくらいかかるか。



ハンドルにカラダを預け。



彼女の部屋の灯りを眺めた。



おかしなもので。



ソコにある彼女の存在に。



さっきまでのアセる気持ちがウソのように消えた。







『オンナの準備は長い』という例にもれず。



俺が到着するまでに、彼女の準備が間にあったためしがなく。



特に今日はいつもより一段と早い到着に、あわてているに違いない。



そんな様子を想像するだけで、自然と口角が上がった。









ようやく部屋の灯りが消え。



夜空に白い息を吐き出しながら。



コート片手に、彼女が駆けだしてくる。



そして。



慣れた手つきでドアを開け、彼女が車に乗り込むと。



ふわっと、いつもの甘い香りが車内を包んだ。







「ごめん、大輔。待った…よなぁ?」



都合が悪くなると、いつも繰り出すイタズラな笑顔。



「まぁな。」



「でもさぁ、今日、めっちゃはやくなかった?連絡してくる時間も、ここまで来るんも。」



「そうか?」



鋭い指摘を、人生経験の差ですり抜ける。



「いっつも言うてるのに。もうちょっと早く連絡してって〜。」



彼女は不満げに唇をとがらせた。



「よく言うよ。早く連絡しても結局同じだろ?いつも待たされてるの、俺だけど?」



「あれ?そうやった?」



『バレたか』と言うように、ニヤリと笑う。



まったく、調子いいヤツ。







「服、迷い出したらキリないねんな〜。」



「ってか、その服また買ったのか?」



「うん。かわいい?」



「スカート、短くねぇ?」



「……。おっさんかっ。」



俺から顔をそむけ、彼女がぼそっとツッコむ。



「聞こえてるぞっ!」



軽くニラんではみたが。



ニヤリと振り向き、茶目っ気たっぷりに笑う彼女と目があって。



俺は、思わず吹き出した。







まぁでも、実際。



大学生の彼女からしてみれば。



10歳近く年上の俺は、十分“おっさん”なのだが。






だけど。



リーグが始まり、会えない寂しさの分だけ。



ショッピングが趣味の彼女の服が増えていくのかもしれない…、なんて。



少々感傷的な気分になった。











苦手だと思っていた関西弁と。



“癒し系”を思わせるカワイイ見た目とは、程遠いキャラ。



彼女とのつきあいは、そろそろ2年になる。








東北、秋田出身の俺が。



1を言えば、10…いや、100を返す勢いの関西弁に。



太刀打ちできるハズもなく…。







思い出すのは、初めて彼女を連れていった飲み会。



彼女は、歳も近い、福澤や清水とすぐに意気投合し ──。






「コイツ、前に名古屋で『シバマサ行ってくる』とか言うからさ、『福井の…?いったいどこまで行く気やねんっ』って思とったら、ナガシマスパーランドやってん。」



「うそやん。一文字も合ってへんし。まさか、清水くん、遊園地はドコでも芝政って言うと思ってる?」



「はははっ。そんなこと…、ないって。」



「絶対そうや。福井には遊ぶトコ、芝政しかないしな。」



「そうやんな〜。」



「いや、だから…。違うって…。はははっ。」



「でも、今は枚方市民やろ?」



「せや。枚方いうたら、ひらパーやろ〜。」



「あっ!清水くん、ニ代目ひらパー兄さんやったらええねん。」



「えぇなぁ!ブラマヨ小杉の後釜やで!? 俺、それ、めっちゃ見たいわ。」



「私も〜!」



「ほら、清水!襟立てて、『ひらパーで、思い出っちゃえよ!』言うてみ?」



「言うてみ?」



「え…。 『ひらパーで…」



「「言うんかいっ!!」」









…とまあ、こんなカンジ。



福澤と彼女との関西弁全開のやりとりは。



息もつかせぬ、超高速の言葉の応酬。



初めて会ったとは、とても思えないほど絶妙なコンビネーションで。



── 俺のトスにだって、イッパツで、そんなにうまく合わないだろ〜がっ!



ふたりで清水をイジっては、キャッキャとはしゃいでいる。








── 正直…、嫉けた。






もちろん、俺のコトなどそっちのけ。



俺は、ふたりの会話に、口を挟むスキすら見つけられず。



その目まぐるしい言葉の応酬を。



テニスの審判のように、首をふって見つめるだけ。






ず〜っとイジられっぱなしの清水は。



最後には『なんとかしてくださいよ〜』と涙目で訴えていたが。



俺なんかの手に負えるわけないだろ。









「夫婦漫才みたいやな。」



最後に現れた、またも関西弁、隆弘。



「「誰がっ!?」」



そのツッコミにも、俺ひとり乗り遅れ…







「大輔〜。ホンマに、どっちが彼氏かわからんなぁ〜。」



撃沈……。








それでも ──。



いつの間にか…。







ぼんやりと彼女を見つめながら。



思い出し笑いならぬ、思い出し“苦笑い”していた俺を。



「ちょっと〜。何なん?」



いぶかしげなカオで覗き込む彼女。







その関西弁に、なぜか癒され。



しばらく耳にしないでいると。



禁断症状すら感じるようになってしまった自分がいて。







「いや、別に…。」



「もう〜。いっつもそうやってごまかす。」






そんなこと、恥ずかしくて、とても彼女には言えないけれど。



ホント、どうかしてるな…、俺。
 
 
 
 
 
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