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□ Addicted To You
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今日の東レとの試合を。
フルセットの激闘の末、ものにしたものの。
精神的にも肉体的にも、ダメージ大。
それにしても。
いつからだろう?
こんな日は、決まって。
無性に『逢いたい』なんて、思うようになったのは ──。
遠征から帰ってすぐ、ケイタイを手にした。
「今から、迎えに行くから。」
時間的には、予定よりだいぶ早かったと思われる連絡に。
彼女は、少し驚いた空気を見せつつも、いつものように「わかった〜。」とだけ応えた。
彼女のウチまで、高速で1時間弱の道のり。
知らず知らずにアクセルを踏み込み。
赤信号に舌打ち。
そんな自分に苦笑い…だ。
「ついたぞ。」
彼女の独り暮らしのマンションの前。
「あっ、う…うん。」
予想どおりのアセった声。
チラリとカーテンにひるがえった人影に。
クスリと笑う。
さぁて、今日はどのくらいかかるか。
ハンドルにカラダを預け。
彼女の部屋の灯りを眺めた。
おかしなもので。
ソコにある彼女の存在に。
さっきまでのアセる気持ちがウソのように消えた。
『オンナの準備は長い』という例にもれず。
俺が到着するまでに、彼女の準備が間にあったためしがなく。
特に今日はいつもより一段と早い到着に、あわてているに違いない。
そんな様子を想像するだけで、自然と口角が上がった。
ようやく部屋の灯りが消え。
夜空に白い息を吐き出しながら。
コート片手に、彼女が駆けだしてくる。
そして。
慣れた手つきでドアを開け、彼女が車に乗り込むと。
ふわっと、いつもの甘い香りが車内を包んだ。
「ごめん、大輔。待った…よなぁ?」
都合が悪くなると、いつも繰り出すイタズラな笑顔。
「まぁな。」
「でもさぁ、今日、めっちゃはやくなかった?連絡してくる時間も、ここまで来るんも。」
「そうか?」
鋭い指摘を、人生経験の差ですり抜ける。
「いっつも言うてるのに。もうちょっと早く連絡してって〜。」
彼女は不満げに唇をとがらせた。
「よく言うよ。早く連絡しても結局同じだろ?いつも待たされてるの、俺だけど?」
「あれ?そうやった?」
『バレたか』と言うように、ニヤリと笑う。
まったく、調子いいヤツ。
「服、迷い出したらキリないねんな〜。」
「ってか、その服また買ったのか?」
「うん。かわいい?」
「スカート、短くねぇ?」
「……。おっさんかっ。」
俺から顔をそむけ、彼女がぼそっとツッコむ。
「聞こえてるぞっ!」
軽くニラんではみたが。
ニヤリと振り向き、茶目っ気たっぷりに笑う彼女と目があって。
俺は、思わず吹き出した。
まぁでも、実際。
大学生の彼女からしてみれば。
10歳近く年上の俺は、十分“おっさん”なのだが。
だけど。
リーグが始まり、会えない寂しさの分だけ。
ショッピングが趣味の彼女の服が増えていくのかもしれない…、なんて。
少々感傷的な気分になった。
苦手だと思っていた関西弁と。
“癒し系”を思わせるカワイイ見た目とは、程遠いキャラ。
彼女とのつきあいは、そろそろ2年になる。
東北、秋田出身の俺が。
1を言えば、10…いや、100を返す勢いの関西弁に。
太刀打ちできるハズもなく…。
思い出すのは、初めて彼女を連れていった飲み会。
彼女は、歳も近い、福澤や清水とすぐに意気投合し ──。
「コイツ、前に名古屋で『シバマサ行ってくる』とか言うからさ、『福井の…?いったいどこまで行く気やねんっ』って思とったら、ナガシマスパーランドやってん。」
「うそやん。一文字も合ってへんし。まさか、清水くん、遊園地はドコでも芝政って言うと思ってる?」
「はははっ。そんなこと…、ないって。」
「絶対そうや。福井には遊ぶトコ、芝政しかないしな。」
「そうやんな〜。」
「いや、だから…。違うって…。はははっ。」
「でも、今は枚方市民やろ?」
「せや。枚方いうたら、ひらパーやろ〜。」
「あっ!清水くん、ニ代目ひらパー兄さんやったらええねん。」
「えぇなぁ!ブラマヨ小杉の後釜やで!? 俺、それ、めっちゃ見たいわ。」
「私も〜!」
「ほら、清水!襟立てて、『ひらパーで、思い出っちゃえよ!』言うてみ?」
「言うてみ?」
「え…。 『ひらパーで…」
「「言うんかいっ!!」」
…とまあ、こんなカンジ。
福澤と彼女との関西弁全開のやりとりは。
息もつかせぬ、超高速の言葉の応酬。
初めて会ったとは、とても思えないほど絶妙なコンビネーションで。
── 俺のトスにだって、イッパツで、そんなにうまく合わないだろ〜がっ!
ふたりで清水をイジっては、キャッキャとはしゃいでいる。
── 正直…、嫉けた。
もちろん、俺のコトなどそっちのけ。
俺は、ふたりの会話に、口を挟むスキすら見つけられず。
その目まぐるしい言葉の応酬を。
テニスの審判のように、首をふって見つめるだけ。
ず〜っとイジられっぱなしの清水は。
最後には『なんとかしてくださいよ〜』と涙目で訴えていたが。
俺なんかの手に負えるわけないだろ。
「夫婦漫才みたいやな。」
最後に現れた、またも関西弁、隆弘。
「「誰がっ!?」」
そのツッコミにも、俺ひとり乗り遅れ…
「大輔〜。ホンマに、どっちが彼氏かわからんなぁ〜。」
撃沈……。
それでも ──。
いつの間にか…。
ぼんやりと彼女を見つめながら。
思い出し笑いならぬ、思い出し“苦笑い”していた俺を。
「ちょっと〜。何なん?」
いぶかしげなカオで覗き込む彼女。
その関西弁に、なぜか癒され。
しばらく耳にしないでいると。
禁断症状すら感じるようになってしまった自分がいて。
「いや、別に…。」
「もう〜。いっつもそうやってごまかす。」
そんなこと、恥ずかしくて、とても彼女には言えないけれど。
ホント、どうかしてるな…、俺。